気温の上昇に大気が霞む。天狗荘からの展望は、空気中の水滴の乱反射に遮られてしまう。駐車場のまんなかに、堆く盛られた雪が、所在無さげに佇む。
登山道には、霜に縁取られた落ち葉と、大地を持ち上げる霜柱が冬を思わせるが、雪は日陰に逃げ込んだままだ。前日のゆきなのだろうか、ウラジロモミの枝葉に張り付く雪が、すでに強い力を持つ朝日に溶かされて、わたしたちの首筋に降り注いでくる。
瀬戸見の森から西を振り返る。天狗荘の背後のスキー場は、黄ばんだ地面を露出させている。盛り上がる丘には、笹原が緑を取り戻そうとしている。散らばる白い石灰岩が、空の青を含み煌く。
標高が1400mに乗ると、逃げ腰だった雪も遠慮勝ちではあるが、道を覆うようになる。湿度を多く含んだ雪は、硬く重い。ざっくりとした感触を靴底に伝えてくる。丘を回りこむと天狗の森のピークが現れた。
南向きの斜面の雪は、ここ数日の陽気に溶かされ、大気を霞ませる微細な水滴として、霧散してしまったようだ。展望は色彩を奪われた、不入山、鶴松ヶ森、鳥形山。そして、足下には草原を突き破る石灰岩。
下山する道の霜柱は、もうすでに溶けてしまい、泥濘をつくる。その黒い大地の色に春を見た。
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