阿波三山(日峰、中津峰、津峯山)の真ん中に位置する中津峰は、地元の人たちに親しまれ、多くの登山者を受け入れている。八多五滝登山口には、湿潤な大気が漂う。苔が岩を覆い、多種多様なシダ類が繁茂する。深く落差の大きい谷だが、水の流れは優しく静かだ。必然的にそこに現れる滝は、女性的なイメージを帯びる。雄鴨の滝、雌鴨の滝、御来迎の滝、布引の滝、蔵の滝、そして名もない滝が岩盤を優しく撫でていく。
道は渓谷を離れ、植林と自然林を繰り返しながら、標高を上げていく。杉林の向こうが明るくなり、丹念に積み上げられた石垣が見えた。石垣に開けられた低い門をくぐると、星神を祀る天津神社が姿を現す。日峰は太陽神、津峯山は月神を祀る。自然を畏怖し、偶像を崇拝しない、素朴で純粋な信仰を垣間見る。
山頂は神社の裏手にある。西に13基の風車がまわる轆轤山を前景に、薄らと雪を纏う高丸山、雲早山などのスーパー林道付近の山が、立ち並ぶ。南の眼下に勝浦川、奥には太龍寺ロープウェイの支柱。東に那賀川が、平野部を貫き、海へと注ぐ。柔らかな日差しの下で、全ての風景が穏やかに輝く。
下山は北へ続く道に向かう。なだらかな尾根が僅かに東へ振れると、傾斜は急になる。清浄な空気の中に、爽やかな線香の香りが漂い始める。突然森が開けて、豪壮な寺が目の前に現れた。如意輪寺だ。
本尊である木造の如意輪観音座像は鎌倉時代に作られ、国指定重要文化財に指定されている。そして、火除けの観音様として信仰されている。また、阿波人形浄瑠璃の人形師、天狗久の作品も奉納されている。寺のご住職が、穏やかな表情でその歴史を物語ってくれた。
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