うららかな日差しが、降り注ぐ。徳島の南部は、冬でも穏やかな気候だ。登山口近くで暮らす老夫婦が、お茶で接待をしてくれた。牟岐の海を思わせる穏やかな微笑で、わたしたちを送り出してくれた。
長閑な農道を奥へと進む。植林の杉たちは、花粉をいっぱいに湛えているのか、赤茶けている。正面に五つの頂を、柔らかな濃緑のビロードで包み込んだような山塊が、目に入る。あれが五剣山だ。
小さな沢を見ながら進む。植林を区切る石垣はかつての水田、そして原形を留めたままの炭焼釜。これらは僅か40年前までは、本来の姿で使われていたものだ。やがて照葉樹とシダの森となる。主稜線に繋がる枝尾根は急登だ。ウバメガシの落ち葉と浮石が、足下をすくおうとする。鋭くなる尾根の上から、煌く海が霞む大気の向こうに見えた。暖かな風が、優しく頬を撫でる。
主稜線に乗る。照葉樹林の中にまで強風が吹き付ける。さっきまでの優しさは消え去り、冷たい鋭さを感じる。ここから小さな四つ目のピークが山頂だ。東には鬼ヶ岩屋が見える。少し左には、山頂に構造物を載せた玉厨子山。南の海縁には、鉄塔の並ぶ鍛冶屋谷山。そして、牟岐川が流れ出す先に港が口を開き、霞む大気が出羽島を蜃気楼のように揺らめかせる。雪山だけが登山ではない。四方を海に囲まれた四国には、まだまだ美しい緑の山が待っているのだ。
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