朝の気温は0℃。しかし、日中の気温は高いのだろうか、周辺には雪の痕跡がわずかに見える程度だ。うす曇の空から、柔らかな陽光が、差し込んでいる。春を思わせる雰囲気だが、今日の暦はうらはらな大寒。川井峠のしだれ桜は、まだ蕾さえつけていない。
植林の中を歩く。苔むした路肩の石積みに、歴史を感じる。弘法大師が一夜にして作り上げたという、一夜建立階段をすぎると天行山窟大師。岩壁に食い込む大師堂が往時を偲ばせる。沢山の遺構を抜けて天行山に立つ。小さいが、川井の集落を見守るような位置にある。
規則正しく並ぶ杉林。間伐材が苔に覆われ緑に染まる。コウヤボウキの薄桃色の綿毛、マツカゼソウの残花、斑に広がる雪と落葉。その静寂を乱す、イノシシの痕跡。樹冠で遠巻きに噂話をするのは、ヤマガラか、コガラか?ヒヨドリのヒステリックな叫び声が響いた。
ピークの南面をトラバースすると、東宮神社に突き当たる。すぐ北側には春宮神社が祀られる。互いに並び東へ鳥居を開いている。神社の背後に広がる、美しい自然林をつめていく。再び、仲良く並ぶ、素朴な石の供物台。そして、山頂にも二つの祠が、並んでいる。かつて、一つに祀られていた二つの集落の祭神は、あるもめごと以来、別々に祀られるようになったという。しかし、今それを見るわたしたちには、穏やかで仲睦まじい姿に見える。いつしかうす雲は払われ、うららかな大気に包まれていた。
やせ尾根を下山する。青い空に、ヤドリギの果実が映える。落葉した樹木の隙間に、白く輝く剣山の一角が見えている。奥深い山村にひかえる信仰の山は、小春日和のなかで優しくわたしたちを抱擁してくれた。
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