車は上勝の集落を抜けていく。気温が高い。勝浦川をどこまで遡っても、雪の気配がない。道脇や谷筋にこびりつく残雪は、春のそれのように汚れている。今シーズンの冬の塊は、いつも日本海側をかすめて、太平洋へ逃げ去っていくようだ。登山道にも、雪はほとんど見られない。日陰に成長する霜柱だけが、冬を主張する。
明るいブナの森になる。夏の間、陽光をほしいままに集めていた葉は、光合成のノルマを満たし、林床へ舞い降りる。分厚い絨毯のように、足下を埋め尽くし、やがて滋味深い土へと還っていく。すぐ隣には、よく手入れの行き届いた杉の植林がある。ここには、保護する森と創る森が混在しているのだ。人の生活と山の良好なかかわりを取り戻す努力が、こつこつと行われている。
三ツ尾の峠から、強くなる傾斜をやり過ごし、山頂に立つ。長大な尾根の向こうに、雲早山が見える。春を告げるフクジュソウの咲く山、西三子山も見える。高城山は雲の中。剣山も矢筈山も、山頂を隠している。しかし、その谷筋には、しっかりと雪を湛えている。霞む大気の向こうには、紀伊水道が鈍く輝く。
北東に下る尾根に乗る。こちらには雪が残っていた。美しい自然林を縫うように道が伸びている。密生する若い樹木たちを、かわしながら続く、優しさあふれる道。日差しは雪を煌かせ、伸びやかな影を生む。冷たい雪の隙間から、ヒカゲカズラの緑がのぞく。小動物たちの足跡が踊り、わたしたちの想像を駆り立てる。
ふたたびブナの森。木漏れ日を浴びながら、高丸山荘前の広場で昼食を摂る。小さな餅を焼き、雑煮に浮かべる。さあ、新しい年が始まる。 |