静まり返る見ノ越。登山リフトも、土産物店も、シャッターを下ろし、そっぽをむく。ここには、あの煩わしいクリスマスの喧騒など、まったく関係ない。
山は、わたしたちを待ちわびていたんだ。登山道に薄っすらと雪を載せて、出迎えてくれた。でも、準備する時間が、足りなかったようだ。雪の下は、分厚く凍りつき、滑りやすい。カモシカの足跡も滑っているね。
ブナたちは葉を落とし、こっそりと隠し持っていた、ヤドリギを見せてくれる。ぐいぐいと樹木を縛り上げるツルアジサイも、力を緩めてそっと寄り添っているだけ。クガイソウの枯れた群落が、麦穂のように揺れる。爆ぜた袋果は、シコクブシ。いつもは遠巻きに噂話をするコガラやコゲラ、ゴジュウカラなどの小鳥たちも、餌をとるのに忙しいようで、目の前で何かを啄ばんでいる。
山頂平原の平家ノ馬場は、黄ばんだ笹を曝け出していた。気象観測所のフェンスに蔓延るワッフル模様の霧氷も、木道のロープに成長する霧氷も、まだ小さい。気温が高い。地吹雪を躍らせて、氷の飛礫を打ち付ける冬は、なりをひそめ笹の陰に隠れてうずくまっている。しかし、次にやってくる寒波の存在に気付いているのだ。
下山する道の雪は、緩んでいた。氷柱はやせ細り消え入りそうだ。寄せては返す波をともない、満ちていく潮のように冬が深まる。引き波の一瞬に見せる、後退する時間が目の前にある。次の瞬間は、どんな姿を見せるのだろうか。息づく自然のリズムに身を委ね、美しい山の一部となっていく。 |