金剛川のむこうに広がる、長大な稜線。巨大な岩屏風を広げて睥睨する姿は、何らかの生命体を思わせる。そこにアルプスを重ねたくなるのは当然だろう。しかし、その山並みの最高峰は、わずか370.3m。
最上稲荷の赤い鳥居をくぐると、常緑樹の林床にコシダの密生する登山道が続く。讃岐の里山で、見慣れた風景に、親近感を覚える。和気富士、寺山、烏帽子岩、観音山、エビ山、岩山・・・眼下に流れる吉井川と、西に広がる山並みのグラデーション、そして山間にたなびく紫煙が美しい。
鞍部の湿潤な窪地は、イノシシたちの大衆浴場らしい。泥を浴び、木の幹に身体を擦りつけ、白く乾いた泥の道を残している。そこに彼らの姿はないが、生々しい息づかいを身近に感じる。ソヨゴの赤い実が鈴生りだ、ナツハゼの酸っぱい実はもう萎れている、サルトリイバラがネズミサシに絡みつきリースを形作る。
足下は、岩盤となる。樹木の背は低くなり、展望が開ける。竜王山のバットレスは、獲物を探す猛禽類の頭のように、金剛川を見下ろし、岩でできた両翼を、大きく広げて羽ばたいている。左翼の先端に尖る森が、最高峰の神ノ上山だ。前ノ峰、間ノ峰、穂高山、涸沢峰、ジャンダルム、奥ノ峰・・・岩尾根に連なるその名前を呼ぶたびに、この大きな鳥に乗ったわたしたちの心は、遥かアルプスへと飛んでいく。
その鳥は、柔らかな落ち葉の積もる尾根に着陸した。ふたたび、慣れ親しんだ雰囲気の漂う、道に降り立つ。大きな翼が、樹林の向こうに消えていく。味わい深い里山の森を抜けて、神ノ上山に立つ。
アカマツの森を抜けて尾根に乗る。どこから声が聞こえる。「確保OK!ロープダウン!」鷲ノ巣の岩場に響くのは、クライマーたちのコールだ。彼らがコールする先にあるのは、遥かアルプスの岩稜だ。そしてこの山は、アルプスへの入口なのだ。
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