凍てつく冷気の塊は、比重が高い。遥か北西の大陸から流れ出し、小さな夫婦池に留まった冷気は、湛える水を固体へと変化させる。雪は、その滑らかな氷の上につくことを許されず、周囲の斜面から、静かに池を見下ろしている。しかし、冬が深まる頃には、全てを覆い尽くしてしまうだろう。
登山道の積雪は、日を追うごとに増えていく。たとえ暖かな日差しが降り注ごうとも、台地の芯から凍りつかせて、太陽と拮抗する力を持つようになる。雪の無い地面の微細な孔から、霜柱が伸び上がる。
いつの時代からそこにいるのだろうか?小さな八十八ヶ所の石仏が、ぽつりぽつりと佇んでいる。風化して消え入りそうな文字を、苔が優しく包んでいく。動物たちはどこに行ったんだろうか?二本爪の足跡はシカなのかカモシカなのか。ウサギの足跡を追って、可愛らしい姿を思い描く。
樹林を抜け笹原に立つ。どこまでも広がる展望。光に照らされる西の山並み、東の峰々は陽光を背に神々しい。丸笹山のピークはそれほど高くはない。しかし、そこは巨大な山塊の真っ只中で、巨人たちに見下ろされる場所だ。圧迫感と抱擁・・・これが畏怖畏敬という思い。
山頂をあとにして、北へ下る。陽光は尾根の向こうに隠れ、梢の上層だけを輝かせる。苔むす岩の谷は、積もる雪で凹凸が均されている。谷に集められた雪や雨は、標高を下げると地面から溢れ出す。そこは貞光川源流。溢れ出す流れは、すぐさま冷やされ、循環する生命の美しさを宿す氷柱となる。
|