勝浦川を遡る車窓から、上勝方面が見える。低く垂れ込めた雲が、峰々に引っかかったまま、たなびいている。県道を逸れると、山に張り付くように、静かな農村が続く。そして、車は雲の中へと入っていった。早朝から雪は、降っていたのだろう。稲刈りを終えた田んぼは、もうすでに白い。大粒のボタン雪が、風に流れる。モノクロームの世界で、たわわに実る柿だけに色彩が宿る。
薄暗い植林の向こうに、明るい森林がのぞいた。山側から雪崩落ちる岩塊。その全てが苔に包まれている。色づく樹木を、いま雪が隠そうとしている。白の階調の隙をつき、紅葉が色を放つ。コントラストと彩度のせめぎ合い。主張する冬と、守る秋。静的なイメージを持つ風景は、目の前でダイナミックな動きを見せている。
巨岩のつくる岩屋のしたに祀られた、金比羅宮を回り込み、せり割り岩を潜り抜け、見晴岩の上に立つ。降りしきる雪が、遠望を奪い去る。眼下に広がる自然林も、色彩を奪われて冬の姿をしている。道は再び植林の中をいく。階段を登りつめると、東光寺がひっそりと佇んでいた。
山頂に続く道は、積雪で不明瞭になる。まっさらな雪を踏んでいく。わたしたちの踏み跡は、雪景色の中に黒い線となり残る。薄日が差しているが、頭上では杉が軋む音を響かせ、強風が轟く。山頂の気温は−5℃。前鬼、後鬼を従える役行者の石像も、やせ我慢しているよう見える。
寒さから逃げるように下山すると、杉の木立越しに青空が見えた。ふんわりと細枝につかまる雪がゆるみ、木漏れ日を浴びて煌きながら落下する。帰路は小さな谷筋へと下っていく。溶け落ちる雪を浴びて、膨潤する水苔が午後の陽光に照らされて、柔らかな凹凸を広げる。窪みは鮮やかな色をした落葉で埋め尽くされている。秋がぎりぎりのところで、踏みとどまったようだ。
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