快晴の空を捨てて、植林帯の急登へと潜りこむ。山歩きには、ちょうどよい気温のはずなのに、汗が吹き出る。やがて植林は、左の斜面から流れ落ち、素晴らしい自然林が広がった。急傾斜に苦しみ俯くと、シバグリが転がり、急登に喘ぎ空を仰ぐと、紅葉が煌く。
林床にクマザサが、繁茂するようになる。樹木の主役は、ダケカンバとなる。道はさらに傾斜を増す。樹木が疎らになってくると、ふたたび空と出会う。絵筆でさっと刷いたような、軽やかな雲が流れる。陽光を浴びた、クマザサの乱反射が眩しい。振り返ると落合峠方面の長大な山並みが、横たわる。向き直り歩き出すと、笹原に深紅色をしたコメツツジのパッチワーク。スカイラインの左肩に丹念に先端を尖らせた天狗が見えた。
天狗峠は、三嶺と天狗を結ぶ縦走路上にある。峠とは名ばかりの立派なピーク。牛ノ背を従え、手招きする天狗塚に誘われるがまま、気がつけばピークに立っていた。すべてを手に入れたような支配感の後、そんな感情を抱いた、己の矮小さを思い知らされる。峠を振り返ると、錦秋を纏う地蔵の頭越しに、コメツツジに染まる西熊山から三嶺。その遥か向こうに、剣山と次郎笈。地蔵の頭から南に下る尾根は、綱付森。カンカケ谷、フスベヨリ谷を挟んで、カヤハゲと白髪山。その肩口からは石立山と中東山。そして西には、たおやかな起伏を繰り返す牛ノ背。
牛ノ背へと降り立ち、終わりのない笹原を、夢遊病のように彷徨する。現実感を喪失した風景は、思考を具象から抽象へと移行する。そしてわたしたちは、シンプルな原始の生き物となった。 |