森の入口に、鳥居が建つ。その奥には、ぽっかりと穴が空いたように、道が続く。左に沢を見ながら、緩やかに登っていく。道は沢に近づき、やがて沢と絡み合うようになる。清らかな流れが、わたしたちの靴を濡らす。森の息吹を含んだ、湿潤な空気が、充満している。シコクブシは、ほとんどが固い蕾のままだった。それでも、僅かに咲く花が、あの鮮烈な紫紺で、風景に彩を与える。
沢が右の谷へと別れる。道はゆったりとした弧を描く、谷筋を行く。さくさくと、積もる落ち葉を踏みしめると、滋味深い大地の香りが立ち上がる。朽ち往く古木、命を終えた倒木、それらを優しく包む苔。その新たな大地に根付こうとする、きのこたち。目の前で展開される、命の環。
まだ鮮やかな緑を湛える木々の中に、ヒメシャラの美しい木肌が見える。その向こうには、苔を纏った岩たちが、谷を埋めていた。右に分かれた、沢の源頭だ。ここで川は生まれ、海へ向かう旅が始まる。
明るい広場へ出た。高丸山と雲早山の分岐点だ。南へ伸びる尾根に乗ると、頭上が開ける。少しガスが出てきたようだ。ゆるい上り下りを繰り返し、ひと登りで山頂に着いた。
小さな祠が、わたしたちを迎えてくれた。ガスに阻まれ、遠望はきかない。高丸へと続く、長い尾根の一部が、かろうじて見えるだけだ。そのとき風が吹いた。分厚いガスを払いのけ、高丸山がその姿を現した。西には砥石権現から高城山への稜線、南に見えるのは、西三子山だろうか。
ふたたびガスに包まれる。幻想的な姿に変わった山を下りる。刻一刻と変化する山の姿。今度はどんな風景を、わたしたちに見せてくれるのだろうか。 |