くねくねと車は走る。長い山道が突然終わり、目の前に大展望が広がった。落合峠から南を見ると、天狗塚、西熊山、三嶺・・・ゴールデントレイルが長々と横たわっている。夏雲が沸き立つ。いわれのない焦燥感が、目を覚ます。草原の山旅が、今始まった。
腰の高さまで伸びるミヤマクマザサの足下に、可憐な花たちが咲いている。はにかんで俯くのはツリガネニンジン、花弁に繊細な文様を刻むシコクフウロ。赤い線香花火はシモツケソウ、紫色の松かさはウツボグサ。
あっという間に落合峠は小さくなり、換わりに落ハゲから烏帽子山が大きくなる。東には、サガリハゲの左肩に、矢筈山の一部が、夏雲を背負って聳える。
ひとたび道は、樹林へともぐる。爽やかな香りは、モミの樹脂。日差しを和らげて、涼やかな風を届けてくれる。ほっとしたのも、束の間だった。植生が変わったとたんに、急登があらわれた。フィックスロープをつたって、登りきったところは、サガリハゲの分岐だった。山頂は近い。
濃密な樹林が南に振れたとき、展望が広がった。なだらかな丘を登りきったところが、矢筈山だった。東へうねる稜線に雲が殺到し、乗り越えようとしている。そのせめぎあう様を黒笠山が、じっと見ている。剣山と次郎笈は、雲に飲み込まれてしまった。
再び焦燥感・・・。夏は短い。次はどの山を登ろうか。
|