登山口の気温は4℃。太陽は雲に隠されている。でだしから強傾斜の登山道を登る。肌寒さはあっという間に消え去り、汗が吹き出る。いつの間にか薄日が差していた。
いつしか傾斜は緩み、ブナの古木が広がる森になった。朽ち果てて倒れた木を覆う苔、不自然に湾曲する幹、バイケイソウの若芽。大きなブナの足下から苔が這い上がる。その苔から水が流れ落ち、幹を濡らす。
樹林は遠のき、潅木へと変わる。笹が林床に茂る。そして、展望が開けた。鉄塔をピークに載せる梶ヶ森、笹原の広がる奥神賀山、ピラミダルな大ボシ山を見ながら、気がつけば小檜曽山に立っていた。東を見ると、たおやかにうねりを繰り返す笹原が、土佐矢筈山へと続く。
真青な空を背景に、白く輝く露岩と、新緑にはまだ早い落葉樹、深い緑のモミが笹原にリズムをつける。大きな叫び声を上げたくなるような景色の中に踏み出し、その風景に埋没する。土佐矢筈に近づくことが、もったいなく感じるような美しさ。いつもでも、このまま歩き続けていたい。
土佐矢筈のピークに立った。安定感のある綱付森が正面に座る。左に目をやると、鋭いピークで天を突く天狗塚が、対照的な印象の牛の背を引き連れている。さらに奥には、峰々に楔を打つ落合峠。その右翼には矢筈山、左翼は寒峰が。帰りたくない、このままこの風景に取り込まれてしまいたい。そんな願いは叶うはずもなく、下山の時間がやってきた。帰り道には、また美しい笹原漫歩が待っている。足は自然とそちらへ向かって動き出す。 |