大麻比古神社の境内、豪壮な拝殿の正面に、樹齢千年の巨大な楠が、枝葉を広げる。拝殿を裏へと回りこむと、ドイツ橋が架かっている。悲惨な戦争という状況下で生まれた、人間愛の結晶として、今に伝えられる。社領をでると長閑な農村風景が広がっていた。そのはずれに石鳥居が構えられる。ここから、登山が始まった。
林床はシダに覆われ、常緑樹が茂る典型的な里山の植生ではあるが、足下にはいくつものスミレが咲き、サルトリイバラがガラス細工のような花をつけ、ヒメハギが紫色の小鳥を休ませる。フリルのような白い花のザイフリボク、アセビのおちょぼ口。苦しい石段の急登だが、春らしく賑わっている。
ときおり背後の風景が、ぱっと開く。肥沃な吉野川を中心とした扇状地が広がり、その南には眉山が横たわっている。吉野川を下流へたどっていくと、雲間からの光を浴びているのか、海のきらめきが見える。登山道に向き直ると、風景が背中を押してくれる。
参道を右に外れると、いい雰囲気の登山道になる。ヤブツバキが地面を飾る道をいくと、つきあたりには真名井乃水がある。どんな干天にも、枯れることのないといわれるこの水は、すっきりとした飲み口で、急登の疲れをぬぐってくれる。
大麻比古神社の奥の院、峰神社の裏に大麻山の山頂がある。趣のある古びた階段と、質素なつくりの社殿。鬱蒼とした森は豊かな植生で絡みつき、多くの鳥たちを養っている。そして、多くの地元の登山者も受け入れている。
けっして、大きな山ではない。しかし、古くから信仰の対象として親しまれ、今もなお人々をひきつけてやまないこの山には、標高だけでは言いあらわせない魅力が詰まっている。
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