涼やかな瀬音の響く登山口。美しい沢に別れを告げ、急登を行く。ほどなく傾斜は無くなり、快適なトラバースが始まった。小さなスミレが枯葉を押しのけて咲く。道脇のスズタケは先端を鹿に食べられてしまっている。そして、大量の糞が転がっている。野生の住人の気配を身近に感じる。
まだ芽吹きには早い森の中に、鈴なりのアセビが咲き乱れる。アセビの白い花に縁取られるように、西三子山のピークが見えた。たおやかに山裾を広げる優しげな山容だ。快適なトラバースは、88番鉄塔で終わる。北に雲早山から高丸山への魅力的な稜線が、横たわっている。憧れをいつか現実のものとしたい。
標高1200m付近の暗い植林帯には、倒木が行く手を阻む。くぐるには低く、またぐには高い・・・図ったような倒れ方。うんざりするころを見計らって、フクジュソウが現れた・・・図ったように。
どんな花よりも早く咲き、大地と太陽を独占し、黄金色に輝いている。いくつかの花は、花弁を落とし坊主頭のような実が、膨らんでいるものもある。周りにはシコクブシの葉が地面を這い、バイケイソウの艶やかな若葉が地面を割って出ている。次の花たちが自分の順番を待ちかねている。
花を振り返りながら、山頂を目指す。真直ぐに突き刺さる陽光が石灰岩の尾根を白く照らす。石灰岩を散らかした山頂からは、レーダーが乗っかった高城山から雲早山まで見渡せる。
下山は北に伸びる尾根から、西の急斜面へと、転がり落ちるように下る。傾斜が落ち着く頃に、もう一つのフクジュソウ群生地がある。まだ目覚めたばかりの花が、ポツリポツリと咲いている。この斜面の春はこれからのようだ。山の中に点在する季節のあいだを、物見遊山。ふと見上げた丘に、佇む鹿と目があった。 |