半田川とともに遡る県道は、細くなるばかり。道脇に雪が見え始めた。ヘアピンを重ねるごとに積雪は増える。石堂神社への林道は、深い雪に閉ざされて車でのアプローチは不可能に。
トレースのまったくない雪に、最初の一歩を刻み込む。ふわっとした感触の後、硬い抵抗感。そのまま体重を預けると、ずぼっと30cmほど沈む。微妙な強度のクラストの上に、新雪がかぶさっている。こんなラッセルは、体力を奪われやすい。
いきなりの重労働で石堂神社に着く頃には、軽く汗ばむほど。レイヤリングをしなおして、急登のきついラッセルに挑む。何度も深雪に足をとられてつまずく。ふと目線を上げた時、その森の美しさに目を奪われる。自然と背筋が伸びて、胸が開き、新鮮な空気が肺に流れ込む。力が身体の底から湧き上がってくる。
樹木は、細枝の先端まで、丹念に氷の化粧を施している。成長する氷の結晶の先端が、さらに細かく枝分かれする。曇り空からの弱々しい光線を取り込み、柔らかい光を発している。純白のシルクの生地を、無造作に広げたようにうねる雪面。カモシカの遊んだ足跡は、絹織物に自由奔放な文様を描き出す。突然、雲が切れて雪が輝き、樹木の影が浮かび上がる。目の前で紡がれていく風景。
雪庇の張り出す尾根を歩き、幾度となく繰り返すアップダウンに疲れた頃、御塔石にたどり着く。これだけの雪をしても、御塔石は埋もれてしまうことはない。その超然とした姿に自然と畏敬する気持ちになる。山頂はもうすぐだ。
目の前に見える小高い丘の上に、半ば埋もれかかった山頂標識を見つける。祖谷山系に引っかかった雲の塊は、無風なのをいいことに、ピークも谷も被いつくし、遠景を奪う。
さあ、帰ろう。わたしたちのつけたトレースは少し黄ばんで見える。春の嵐とともにやってきた黄砂が混ざっているのだろう。こんなに雪深い山の中にも、確実に春は染込んできている。 |