綿のような雪が、背負ったばかりのザックに、降り積もる。華やかなウェアは、雪に嫉妬され、白く染め上げられていく。雪を払い落とす術のない樹木は、ただ黙って染まっていく。
山間に点在する、静かな農村の生活道から、登山が始まった。急な斜面に整然と並ぶ茶畑、雑木と竹林の隙間に通る道。すべてが、薄っすらと白い皮膜に、包まれていく。集落が途絶えるあたりで、林道に突き当たる。積雪量は30cmに達する。林道の終点から、山道へと変わる。
美しい自然林は、丹念に細枝の先端まで雪を乗せている。繊細に飾られた白い回廊に、雪を踏む音だけが響く。湧き上がる歓喜を、押さえ込むように静かに歩く。やがて植林帯に入り、スイッチバックを繰り返す急登に出合う。積雪はときに膝に達する。つま先を雪面に蹴りこみ、ステップを刻んでいく。
一合目、二合目、三合目、ぐんぐん高度を上げていく。真っ直ぐに伸びるスギやヒノキを追い越していく。七合目、八合目、九合目、すっと傾斜がなくなった。阿波竜王と讃岐竜王の鞍部に抜けたのだ。まったくトレースのない道には、股下に届く雪が、積もっていた。
東には雪をたっぷり載せた、見上げるばかりの傾斜が立ち上がる。その先には、讃岐竜王のピークが待っている。西には緩やかな下りに、柔らかなうねりを繰り返す、深雪の道が森へと吸い込まれ、阿波竜王へと続いている。二手に分かれて、まっさらな雪に足跡を残す。
ラッセルのすえ、たどり着いた阿波竜王。雪はいまだに降りつづく。三頭越へと続く稜線は、大事な物を隠すように、雪に閉ざされている。隠しているものの正体を、暴きたい衝動を抑えて、今回はこのまま引き返すことにしよう。振り返ると、自分達の引いたトレースを、また雪が隠そうとしている。そこに再び足跡を刻み込む。 |