雲を描き忘れた空はひたすら青い。林道から見える山肌は錦秋に彩られる。
美しいブナの斑な木肌。滑らかなヒメシャラの赤い木肌。黄葉を透過した間接照明を受ける色鮮やかな落ち葉の道。
そんな風景が、出だしから続くスイッチバックの急斜面さえも、楽しいものにしてくれる。
うねうねと幹をくねらせる広葉樹のなかに、真っ直ぐに幹を伸ばす針葉樹がぽつりぽつりと混じり始める。針葉樹のヤニが発する爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。やがて東へと延びる尾根に突き当たる。森はダケモミ一色となった。高い梢に茂る常緑の葉に青空が斑模様となり広がっている。
いったんは緩やかになった道を笹が覆い被さるように茂る頃、斜度はまたきつくなる。ダケモミたちは後方へ過ぎ去り、冬枯れの始まる自然林となる。樹齢300年といわれるマユミの古木、たぬきのかんざしをきっかけに登山道は尾根の南を巻くようになる。
森林限界を抜けたとき、輝く笹原と真っ青な空が広がった。夏よりも黄色味を増した笹原を登りつめてゆく。三嶺の南面に笹を突き破る露岩が、空を映し青味がかる。その岩を赤く燃えるコメツツジがふちどっている。空には平筆で刷いたような雲と、丸筆で叩いたような雲がリズム良く配置される。
頂上基部のコメツツジの回廊を空に向かって歩けば、西に続く西熊の稜線、南に下る白髪への稜線が視界一杯に広がる。そこは三嶺山頂だ。北には落合峠のくびれが山脈に楔を打つ。東には徳島でもっとも大きな兄弟、剣山と次郎笈。それに従う丸笹と塔ノ丸。もう一度振り返り西熊のさらに奥を注視すると、西の盟主、石鎚まで見えている。はるか南の山襞の途切れるところには土佐湾が霞む。
いつまでも見ていたい欲求に、もっと知りたい欲求が勝る。それが下山の合図。次の山を知るためには、その山を下りなければならない。そんなわたしたちに三嶺に住み着く白い犬が帰り道を示してくれる。ありがとう、また帰ってくるよ。
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