いきなりの急登に喘ぐ。初めての避難小屋での宿泊。シュラフや食料、二日分の飲料水でザックは大きく膨らんでいる。重荷を担いでの歩行はバランスをとるのに苦労する。しかし、休憩の度に見せる笑顔はそれを楽しんでいるかのようだ。
樹林が低くなり頭上が明るくなってきた。目線の高さで移ろっていた笹原が足元に跪き、かわって空と遠望が広がる。
西に伸びる稜線上にピラミダルな天狗塚が。そこで稜線が折れ曲がり、牛の背へと続く。空荷で天狗塚へ駆け上がるとリンドウたちがにこやかに迎えてくれた。
次に目指すは西熊山だ。南の谷から這い上がってくるガスの中を東へと進む。穏やかな笹原にヤマラッキョウやリンドウが咲く。お亀岩避難小屋を下に見ながら紅葉間近のコメツツジを縫って西熊山ピークに立つ。真っ青な空と真っ白な雲が陣取り合戦を繰り広げるその下で、笹原の稜線が三嶺へと続いている。まだ、遠いなぁ。
中天にある太陽が笹原に光と影のうねりを作る。笹原を歩く登山者を遠く離れてみると、なんてちっぽけなんだろう。でも、心細くはない。むしろ何かに包まれているような安心感さえある。わたしたちの歩く道と何度も交錯する細いラインはけものたちの通り道。わたしたちは訪問者なのだ。そして、迎え入れられている。
ついにすべてが足下の物となる三嶺山頂。すぐ隣のカヤハゲはもう雲の中。南側に広がる高ノ瀬から丸石の稜線を圧倒的な質量で飲み込もうとする雲海。その遥か東に兄弟のように聳える剣山と次郎笈。視線を近くに引き寄せると夕暮れ迫る微妙な色合いを映す池。そして、今日の宿、三嶺避難小屋。
荷を解いて落ち着くと空腹感が湧き上がる。持ち寄った食材を集めて調理にかかる。はっきりとした目的意識は必然的とも言えるチームワークを生む。ガスバーナーの噴射音に混じり、ジュワジュワと肉や野菜の炒める音が広がる。一瞬の間をおき、なんともいえない香りが鼻腔を刺激する。そして、ごく自然に酒が飛び交う。
空に月が浮かぶ頃、星が輝きを強める頃、わたしたちの宴は終わる。暖かいシュラフに包まり、今日の疲れを明日の期待へと換える時。ランタンを消した小屋に一つ二つと寝息が響き始める。
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