深い緑を湛える松尾川ダムを横目に見て小さな沢沿いについた道を峠に向かって車は登ってゆく。
以前は悪路で有名だったこの道もほんの一部を残しすべて舗装されている。
覆いかぶさる木の葉は四季を通していろんな表情の美しさを見せてくれるだろう。
やがてくる秋の風景を思い描きつつたどり着いた落合峠は剣山から三嶺まで見渡せる。
北東になだらかな笹原が盛り上がり風に揺れている。その丘陵自体が揺れているかのような錯覚に陥る。
登山口からかわいい花たちが迎えてくれた。シコクフウロ、ツリガネニンジン、ヤマハハコ。
みんな笹原に埋もれるようにひっそりと佇む。そんな健気な花たちを見るために、わたしたちも笹原に埋もれる。
夏の日差しに答えるようにむせ返るような濃い草いきれが立ち上った。
なだらかなはずの笹原は見た目ほどやさしくはなかった。足元を覆う笹は、障害物を隠して足を掬おうとし、朝露をいっぱいに含み下半身をびしょびしょにする。ストックを使って探り探りゆっくりと進んでゆく。
尾根に立つと北に阿讃山脈が、そのむこうに飯野山の頭も見える。南を振り返れば剣山から三嶺までがずらりとならぶ。
下を見れば祖谷渓から落合で分岐した谷がこちらに向かってつきあげる。樹林に虫食い状の草原をあしらったサガリハゲと尾根続きに伸びる山の向こう側が矢筈山。まだ先は長い。
登山道はアップダウンを繰り返し、樹林と笹原を繰り返す。モミノキの林は熱を帯びた大気を冷やし、青い樹脂の香りと、豊穣な腐葉土の香りをミックスしてわたしたちに特別な空気を届けてくれる。
草むらの中にあふれ出す色彩を見つける。メタカラコウが金色に輝き、クガイソウが紫色の尾っぽを振る。白い大輪の花火はシシウド。そして、蜂が、蝶が舞い降りる。
大岩を回りこみ笹原に出ると頂上は目の前。東には黒笠山が厳しい稜線上で頭をとがらせる。北には石堂が、そのむこうには高松も見えている。塔ノ丸のたおやかな峰の先には剣山と次郎笈。その稜線を南に目線で縦走すると行き着く果てに三嶺。そして牛の背ごしの三角形は天狗塚。山襞の間を飛んでいく鳥のように空の旅を楽しむ。
でも、そろそろ地上に降りなければ・・・。心の翼をしまいこみ地上を歩く。やっぱり地上は歩きにくいね。そんなわたしたちのボヤキを聞いたのか、帰りの笹原が刈られ広くなっている!?二人の若者が下草を刈ってくれていたのだ。数日間かけて笹原を頂上まで刈ってくれるらしい。ありがたいですね。神様ではなく、二人の神様に感謝しつつ岐路に着く。
さあ、汗を洗い流しに温泉にいこうよ。心はすっかり地上に降りてしまったが、温泉で思うのは次の山のことだね。 |